看護師不足が問題提起されて何年が経つのであろうか。
全国の病院で看護師が不足していると最も声高に叫ばれたのは、
医療法の改正が行われた1997年以降であったと記憶している。
看護師不足の問題は、最近の問題ではなく、
看護師の供給数自体は増加傾向にある。
なぜ、供給数を上回る需要増加が起こり今後も深刻化していくのか。
日々進歩する医療の現場で苦悩と葛藤を続ける看護師の実状とは。
医療問題の解消されない”痼”を取り上げる。
まず看護師不足の主要因として
待遇/医療法の盲点/増大する医療費/過剰な医療ニーズ
などが挙げられるが、今回は「待遇」から掘り下げて解説していこう。
待遇と給与条件
看護師の労働環境は一般的な職業に比べてもあきらかに過酷だ。
よく聞かれる「キツイ」、「汚い」、「危険」に加えて、
「休暇が少ない」、「規則が厳しい」、「化粧がのらない」、「薬がないと辛い」
などを含めて9Kと言われたこともある。
人命を預かる重圧の中、高度な医療サービスを提供しなければならない
看護師のプレッシャーと愚痴をいう暇もない忙しさを想像できるだろうか。
根本的な問題として、交代制勤務による弊害もあることも付け加えておく。
夜勤勤務も普通の看護師全体の平均勤務時間は12時間超、
ブラックな職場が多いと噂のIT・Web系職種といい勝負である。
もちろん休日も平均以下の取得率/取得日数で、
当然待遇(給与)も相応に求められてしかるべきはずだが、
日本の看護師給与平均はアメリカと比べた場合で物価ベースの約半分。
当然不満が募っていくことは容易に想像できるのである。
上記のような理由から過酷な労働条件と過小な待遇は高い離職率を招き、
更に現場の忙しさを加速させる”負”のスパイラルに陥っている。
5年とも言われる看護師の”寿命”であるが、
数字上の離職率(12%超)も高いことが物語っている。
外国人看護師の招聘による人材確保の取り組みもまだまだ、
制度整備の問題が大きく、最近はインターネットの普及により、
看護師専門の求人・募集サイトなどが人材供給を促進、
流動性の向上・人材確保コスト低減の一翼を担っているのだが、
根本的な労働環境の整備と待遇の改善を行わないかぎり、
いたずらに人材を使い捨てるのみになってしまうのである。
医師・看護師を確保出来ず、閉鎖に追い込まれた廃病院を
見たことのある読者は少なくないであろう。
また、看護師不足は先進国でも共通の課題であるが、
日本の場合、異なる事情がひとつある。
それが、医療に対する考え方で、
予防医学を中心とした医療提供を行う”質”の欧米と
対処療法を中心とした医療提供を行う”量”の日本である。
”量”の考え方とは看護師数、医師数、病床数などを
豊富に提供することこそ「医療の向上」であるとの考え方であるが、
病気の発生自体を抑制することに主眼を置いた
欧米の医療とは根本的な思想からして乖離している。
結果、過剰な医療サービスが求める人員が増え続けているのだ。
前述したが、医療法の改正によって規定された
”7対1”の是非、問題点がお分かりいただけるのではだろうか。
また、過度な医療ニーズに対する社会の認識是正も必要と痛感しているが、
まずは現場の看護師を第一に労働環境の整備、待遇の改善など
最低限安心して働ける職場を実現、
おって、適切なキャリアプランの策定支援など
看護の質向上に勤めるべきではなかろうか。
実は先進国でもかなり低い医療レベル・医療予算の日本であるが、
マスコミの報道に煽られ、問題の本質を見誤り続けると
現代の医療過誤問題など過小に思えるような、
1990年代のアメリカを彷彿とさせる医療荒廃が待っているのである。